THE DIALOGUE 0006
James Oliver
Founder / Editor in Chief of THE NEW ORDER Magazine
THE NEW ORDER Magazine 編集長
James Oliver
世界各国に根強いファンを持ち、ファッションやデザイン、アート・カルチャーなど、世界中のシーンをハイクオリティに切り取り、発信し続けるマガジン「THE NEW ORDER」の創業者/編集長。2009年に創刊し、今年で15周年を迎える。ニュージーランド出身の元プロフットボールプレイヤー。
世界各国に根強いファンを持つオンラインメディア "SLAMXHYPE (スラム・エックス・ハイプ) " の編集長として活躍し、2009年より新たなファッション/カルチャーマガジン "THE NEW ORDER Magazine (ザ・ニューオーダー・マガジン)"を立ち上げた "James Oliver (ジェームス・オリヴァー)" 。自ら取材や撮影までこなし、多岐に渡るクリエイティブをこれまで世界に発信し続けてきた。
継続するだけでも難しいとされる出版業界の中で、今年で15周年を迎えた彼が今見つめる、世界、そして日本のカルチャーの現在地、自己流のジャーナリズム、見据えるTHE NEW ORDERの未来について話を聞いた。
SLAMXHYPE と THE NEW ORDER。
「元々僕は学校をやめて、オーストラリアでサッカー選手を目指していたんだ。ただ怪我の問題で辞めざるを得なくなり、それからはサッカーの指導をしていた。成長する中で、特にスケートボードや音楽といったサブカルチャーに興味を持ち、雑誌にも常に愛着を感じていました。子供の頃からサッカー誌やファッション誌を主に集めており、"The Face"や"i-D"・"Arena Homme+"などの雑誌から多大な影響を受けた。サッカーを指導している間に、紙雑誌を始めたいと思っていましたが、当時はお金もなく、多くの障害がありました。そこでオンラインメディアとして、”SLAMXHYPE(スラム・エックス・ハイプ)”を兄と一緒に立ち上げたんだ。これが2003年のことです。」
SLAMXHYPEはストリートカルチャーを中心に紹介するメディアとして、北米、ヨーロッパを中心に世界各国から熱心なファンを獲得していった。オンラインメディアを運営する中でJames氏はメディアづくりに没頭していった。そして、彼の好奇心は徐々に紙媒体をつくることへと向いていく。
「SLAMXHYPEはある種のムーブメントや、オンライン上でのノイズのようなものをつくり出したように思う。そこから本格的に紙媒体の出版を構想し始めたんだ。元々ファッションに深い興味をもっていて、特に本物のストーリーやユニークな製品を持つブランドやレーベルに惹かれました。SUPREMEやBAPE®︎、FUCTといったストリートブランドはもちろん好きだったし、Maison Margiela、Helmut Lang、COMME des GARÇONS、RAF SIMONSといったデザイナーズブランドにも非常に興味があった。音楽やスケートボードも幼少期から大好きで、自分のスタイルに強い影響を与えているよ。もちろん、フットボールを中心に、スポーツもずっと自分にとって大切なカルチャー。そこで、ユニークな歴史が溢れ、多様な文化が混ざり合う日本に移住することを決めたんだ。それからあまり時間が経たないうちに、THE NEW ORDERを立ち上げた。もちろん日本語も話せなかったし、知り合いがたくさんいたわけではないけれど、それでも雑誌をつくりたいという気持ちがとにかく強かったんだ。」
そうしてJames氏は日本に拠点を移し、2009年に「THE NEW ORDER」を創刊した。
コミュ二ティを接続し、カルチャーを創造する。
「雑誌の名前は、好きなバンドから引用した。ただその言葉が私にとって何を意味するのか、そしてそれが雑誌でどのように表現されるかが重要だったんだ。雑誌に載せる全てのコンテンツは、今に関連していて、未来を見据えている必要があると思う。8歳のときに最初に買ったカセットテープが "Guns and Roses" と "New Order" だったんだよ。THE NEW ORDERの目的は、雑誌を通じて新しいビジョンを創造すること。1つの文化や1つの地域に限らず、THE NEW ORDERの独自のビジョンを持って地域のコミュニティをつなげ、それを世界に発信すること。そのために素晴らしい写真家・スタイリスト・ライターと協力をしているんだ。人々が普段あまり目にしない世界の重要な一面を、形を壊さないように届けることを大切にしているんだ。このプロジェクトはTHE NEW ORDERを支える人々の素晴らしい貢献なしには成り立たないよ。彼らが有名かどうかは関係なく、誠実さとオリジナリティが大切なんだ。音楽やファッションはもちろん雑誌の重要な要素の1つだけど、アート・タトゥー・スポーツ・食・アウトドア・ガーデニングなど、自分が興味を持つ様々なクリエイティブな世界にも常に注目している。」
ファッションや音楽などの、動きの早いシーンの最前線を切り取るのはもちろん、ユニークな企画や、美しくハイクオリティなビジュアルや編集で読者を魅了し続けるTHE NEW ORDER。素晴らしいクリエイティブをつくり続けるJames氏に、思い出に残る企画について聞いた。
「2019年に販売した ISSUE #22 のカバーとして、OASISのリアム・ギャラガーにインタビューする機会を得たんだ。彼のLAでのツアー中に取材と撮影をしたんだ。若い頃からOASISの大ファンだったので、こんなチャンスが訪れるとは思ってもみなかった。これ以上の大きな経験を今後得られないんじゃないかと感じ、当時はこれ以上雑誌を続ける意味が意味があるか悩んだよ。ただ同時に、他に自分は何をすべきだろうとも真剣に考えた。」
唯一無二のジャーナリズム。
雑誌をつくるプロセスについて話を聞く中で、THE NEW ORDERのオリジナリティについてこう語り始めた。
「どうやってこれまでたくさんのカルチャーを学んできたのか、どのように雑誌の企画をしているのかなど、雑誌のつくり方については興味を持ってもらうことが多いね。そうやって人に興味を持ってもらえるのは、私がファッションやジャーナリズムの学校に通ったわけではなく、実践をしながら独自で学んだ、ということが大きいと思う。取材をするにしても、写真を撮るにしても、誰かのキャンペーンをつくるにしても、正式な手法に従っているわけではなくて、自分の記憶や経験から生まれるイメージを1つずつ形にしている。セオリーに則ったやり方ではないので、一緒に仕事をする周りの人たちから興味深いと感じてもらえるのかもしれない。私の手法は自然に身についているもので、基本的にはサッカーチームを監督するのと同じように雑誌をつくっている。各号がシーズンであり、各特集が試合のようなものだ。リーグに勝つためには、すべての試合に勝たなければならない。最高の製品をつくるためには、すべての特集に全力を注ぐ必要がある。毎シーズン、リーグで優勝するためには、すべての面で最高でなければならないんだ。」
THE NEW ORDERのページを開くと、一般的な雑誌には見られない切り口の特集や、ユーモア溢れる写真がひろがる。取材相手の選び方やこだわりなど、独自のジャーナリズムの哲学について彼はこう続ける。
「たとえば、本当に会いたかった人に実際に会いにいこうと思う気持ちだったり、または、自分が気になっているカルチャーの背後にいる、本当にピュアで真摯なストーリーを持っている人々を見つけることがまず大事なんだ。例えばミュージシャンと話をして、なぜ音楽をつくるのか、どうやってその曲はつくられるのかを知ることが、私にとっての動機づけになるし、それは同時にコンテンツとしても非常に面白いテーマだと思う。世界中のたくさんの人がTHE NEW ORDERを手に取ってくれる理由の1つは、特定のクリエイターやアートフォームの背景や理由をみんな知りたいから。デザイナーやミュージシャン、シェフやアーティストなどのクリエイターたちについて、彼らが何者なのか、なぜそれをつくっているのか、どうやってつくっているのかを知ることで、その作品により深みがぐっと増すし、愛着が生まれるんだ。」
カルチャーの輪郭。
あらゆるカルチャーをすぐそばで見つめてきたJames氏は、時代と共に変化するメディアとカルチャーの関係性についてこう指摘する。
「時には実態のないものが非常に人気になって、過剰に広まることがある。また逆に、本当に良いものをつくっているアーティストがいたとしても、彼ら自身があまり目立とうとしないために認知されないこともあるんだ。本当に価値があるものが広まっておらず、派手なものだけが広まる。それが今日の社会で起こっていることだ。SNSも雑誌と同じように重要なメディアだけど、過剰に有名になり過ぎることや、メディアがブランドやクリエイターを過度に評価し過ぎることで、それはもうかっこいいものではなくなってしまうこともあるんだ。それが悪いことだとは思わないけれど、そのカルチャーの意味が少しだけ、失われているのは事実だと思う。少し残念なことではあるけど、今の世界がそういうものだし、社会がそう変化している。日本にいようが、ニュージーランド、アメリカ、ヨーロッパのどこにいようが、それは同じだと感じているね。インターネットを通じて、みんなが同じことをして、同じトレンドを追いかける時代時代に生きており、個性が失われつつある。」
また、雑誌を創刊してから日本に住み、取材を続けてきたJames氏は、日本の文化をどう捉えているのだろうか。
「一つの日本の魅力として、日本人がすでに存在するものを認識する際に、非常に優れた感覚や目を持っているということは日本人のユニークなところだと思う。日本人は既存のものをうまくアレンジしたり洗練させたりするのがとても得意だよね。それは必ずしも全く新しいものを創造することではなく、すでにあるものを少しだけ手を加えて、突然「おお、これはすごい」と思わせるようなものをつくり出すというようなイメージです。このスキルは時にサンプリングに似たようなもので、その感性は日本人の魅力だね。」
手触りある体験が、人生をつくる。
約2時間のインタビューの中で、フィジカルな体験の重要性を繰り返し主張するのが印象的だった。紙媒体での表現を続けるJames氏は、体験の大切さをこう表現する。
「お店に行くとか、ライブに行くとか、サッカーの試合を観に行くとか、そういうことが大事なんだ。人に会い、人を見るということ。それが自分を変える大切なきっかけになると信じているんだ。雑誌についても全く同じことで、自分の足で書店に行き、たくさんの本の中から自分が好きなものを選んで、ページの隅々まで読み込んだような雑誌は忘れないし、捨てることができない。五感を通じた体験というのはそれほど強烈に自分自身に影響を与えるものであり、そういった経験が人間の価値観を形成する上で大切であると信じている。それはフィジカルな表現ならではの可能性であり、紙雑誌にしかない価値だと思う。THE NEW ORDERのムーブメントが人々にそういった行動を促し、スマホで写真を見たり動画を見たりするのではなく、実際にその場で体験することを促すような影響を与えることを願っているよ。」
新しい秩序。
15周年を迎える今年、THE NEW ORDERのプロジェクトに今どのような想いを持っているのか。最後にJames氏はこう語り、インタビューを締め括った。
「先ほど話した通り、カルチャーやメディアの形、金銭面も含めて取り巻く環境は急激に変化している実感がある。色々と考えるべきことも多いけれど、結局は雑誌が良いものに仕上がる限り、他のことはどうでもいいんだ。何かに情熱を持って取り組むということは、たとえばOAOのみなさんがシューズづくりで追い求めているように、最終的なアウトプット、つまり結果が最も重要だということなんだ。その過程には多くの関係性やコミュニケーションがあり、背後にはさまざまなトラブルがありますよね。ただ、結局のところ、みなさんは最終的にはシューズをつくっていて、私は雑誌をつくっている。どのようなことが起ころうが、やるべきことはいいものをつくることだけだ、ということ。すごくシンプルなんだ。だから、結果さえ良ければ他のことは何も重要ではない。それが結論かもね。
世界のみんながTHE NEW ORDERを知っている状態にしたい。そしてこれからは、雑誌をつくるだけでなく、コラボレーションやイベントなどのプロジェクトにも積極的に取り組んでいこうと思っている。いつか音楽フェスを開催したいとも思っているんだ。これらのプロジェクトは、今の私にとって非常にエキサイティングなもので、常に何か新しいことができないか目を凝らしている。いろいろな仲間やカルチャーを繋ぎながら、僕も新しい人やものと出会っていく。これ以上に楽しいことはないんだ。」